「これを見てもらいたいの。この男に見覚えは?」
ここまで冷徹だと、向けられている方はむしろすっきりとした気分になっているものなのだと、このとき亮は初めて知った。
もはや不快感すら抱くことのできない女の声を背後に聞きながら、正面で強い光を放つディスプレイに目をやる。闇に慣れた目には強すぎる明かりを直視することはできず、亮はしばらくの間、画面に何が表示されているのかわからなかった。だがおそらくは新宿の事件の犯人と思しき人間か、その背後で糸を引いていた人間の顔写真だろうと踏んで、目を慣らしていった亮が見たものは、あまりにも意外なものだった。
「新藤昌之一等陸尉。陸上自衛隊第一空挺団第一大隊所属」
「この男......」
わずかに数時間前の記憶がぼんやりと蘇る。映像が鮮明でないのは、記憶を辿る間に、弟の姿が何度も現れるからで、亮はどうにかその姿を抑えて、ディスプレイに映る男の顔写真と、弟の傍らに立つ尉以上の階級を持つ男の姿を重ねた。
「会ったことがあるのね?」
「見たことがある、程度ですが......」
整然と並び立つ墓石の林。立ち昇る香の清涼な香り。静まり返った墓地の中で亮が見た男。弟と共に吉岡なる人物の墓に参っていた男の顔が今、目の前にあった。身分証明に使われていると思しき顔写真の下には、全身写真。陸自の正装姿から野戦戦闘服、果ては背広姿まである。写真はすべて隠し撮りで撮影されたもののようだった。それはつまり、この男が、警視庁公安部から何らかの要因でマークされた視察対象者であることを示していた。
「それはいつ頃? 誰かと一緒にいた?」
「ちょ、ちょっと待って......ください」
抑え、冷淡さを貫いてはいるが、女の語気は明らかに強くなっている。この男がそうさせるだけの重要な視察対象者なのか、と思いはしたが、もしそうならば、亮には、この新藤なる人物がなぜ弟と一緒だったのか。その方が気にかかった。
「この男が何を? いったいなにを調べているんです?」
「質問に答えなさい。質問することは許可していないわ」
断頭台へ振り落とされる刃のような、硬質で冷たい声が亮の耳朶を貫く。背筋を這い上がる特有の恐怖心を、しかし亮は押し退けて言葉を続けた。今は屈している場合ではない。その思いが強烈に身体の中で弾けていた。
「この男は見た。数時間前だ。今日の昼頃、おれの実家近くにある墓地で。だがこいつがなんなんだ? いったい何をしたんだ? 第一、なんでおれがこいつを目にすると、あんたはわかってるんだ? おれとは縁遠い......」
「弟さんと一緒にいたんじゃない?」
全ての思考に、一瞬の暗黒が訪れる瞬間を亮は見た。最も確認したいと思い、それでいて視察対象者と彼が一緒にいた事実を口にすることは躊躇われた亮の迷いさえも撃ち抜いて、背後から落ちて声は、すでに全てを理解しているものの冷たさを持っていた。「どうしてそれを......」と振り返った亮の前で、下方からディスプレイの明かりに照らし出された女の幽鬼じみた美顔が、静かに瞼を閉ざした。
