閃光が、闇を切り裂いた。
突入の下命に即応し、投げ込んだスタングレネードが炸裂する。圧倒的な音と光は、屋内に立てこもる対象を一時的に無力化したはずだ。すぐさま制圧第一班の隊員四人が、潜んでいた物陰から腰をあげると、建物入口のドアを蹴破った。
突入後、躊躇無く発砲。蹴破った勢いそのままに、飛び込んだ隊員二人が構えたMP5Fサブマシンガンが、銃口に装着したフラッシュハイダーによって星のように瞬く銃火を放ち、同時に銃口初速毎秒四百メートルの速さで撃ち出された9ミリ弾が室内を薙ぐ。
偵察情報上、人質は突入口のさらに奥の部屋に監禁されていることがわかっているとはいえ、容赦の無い強攻は、掃射を終えた二人の「クリア」という掛け声に続いて、彼らを追い越すように飛び込んだもう二人の隊員が引き継いだ。
姿勢を這うほどに低く屈め、それでも俊敏さは崩さず、一足飛びにさらに奥の部屋へと飛び込んだ二人もまた、両の手で構えたシグP228自動拳銃のトリガーを、一切の躊躇無く三回引いた。反撃の間を相手に与えぬほどのすばやさで、しかし確かな狙撃と確信を持って放たれた弾丸は、対象の肩、手、足を正確に射抜いていた。
(建物西側から、逃走する車両あり)
(殲滅戦の許可は出ているぞ、アルファチーム)
指揮班が追加対象を告げ終わる前に、本人を知らずとも、あの強面が十分思い起こされる野太い声が、装着したケブラー製ヘルメットに内蔵された無線から響いた。瞬間、シグを腰のホルスターに収めた二人は、最初に飛び込んだ二人と合流すると、そのまま屋外へ飛び出した。
シグに代わり、肩に通したストラップで背中に固定していたMP5Fを引き降ろし、二人が構え直した時、眼前には猛スピードで迫るセダンタイプの車が迫っていた。
指示を待たなかったのは、その余裕が無かったからではない。すでに認められた各自の判断で発砲。セダンの前輪とボンネット、その下のエンジンルームを、無数の弾丸が、正確に射抜いてゆく。その間フロントガラス、またその奥、車内への着弾は一切ない。
程なくして小さな爆発音と共に、セダンは停車。すでに自動車としての機能のほとんどを失った鉄塊に、別班の四人が走り寄り、視線と一体化させたMP5Fの銃口を運転席に向けている。警戒を緩めず、しかし大胆に、運転席のドアを、一人が引き剥がすように開いたのを確認した時、
(アルファの突入から三十秒か。まあまあ、といったところだな)
再びあの獣の唸りを思わせる声が、今度は若干上機嫌と思える様子で鼓膜を揺らした。続いて指揮班から(訓練終了)の命が下されると、隊員たちは一様に安堵の息を吐いていた。
訓練である。
突入時、MP5Fの掃射の対象も、自動拳銃に三ヶ所を打ち抜かれた対象も、すべて人型の的。暴走したセダンの運転席には誰も乗っていないし、もし止めることができなければ、遠隔操作で停止させることもできる。
反撃は無い。そうわかっていながら、それでも彼ら隊員が、訓練終了と同時に安堵の息を吐いたのは、訓練に望む姿勢が出来ている、という彼らの精神性だけではない。それ以前に、使用されている武器、弾薬がすべて実弾である、という現実に拠る所が大きい。時に重傷者さえ出す、彼らの訓練の厳しさは、日本に存在する武力組織の中でも、一、二を争うものである。
(アルファ1、訓練報告をおれのところへ持ってこい。以上)
三度、野太い指揮官からの声を最後に無線は切れ、訓練は終了した。突入・制圧班の第一班、アルファチームのチームリーダーである、男性にしてはやや小柄な人物は、その言葉を聞き遂げてからヘルメットを外した。
「モテる男は辛いな、高宮」
別班ブラボーチームのリーダーが、同じようにヘルメットを外し、無線が完全に切れていることを確認した上で、悪戯交じりに微笑むのを、警視庁特殊急襲部隊『SAT』アルファチームリーダーの高宮亮は、苦笑いで答えた。
