もこ草稿1-2
Posted on | 6月 8, 2009 | No Comments
「ショウちゃん、なに考えてんの」
現実に引き戻す唐突な声におどろいて、思わず私はシャープペンを机に落とした。大げさな音があたりにこだまする。指の先でシャープペンを回転させていたのだけれど、それをしていたことすら自信がない。
ちょっとの沈黙が出来て、周りの人たちが遠巻きに私たちを見ていた。
縮こまった私は、何でもありません気にしないでくださいごめんなさい……、という顔でうつむいた。
「ショウちゃん、完全に上の空だったね」
講師の声がまた教室内に響きだし、あたりはにわかにいつもの空気をまとっていった。そのなかに混じり、友達の声がする。
「あ、うん、え?」
「ぼーっとしてたよ、ショウちゃん、大丈夫?」
「あ、ああ、うん。そっか」
うなずきながら、私は、そんなにも遠くの世界にいっていたのかと不思議な気持ちになった。さほどの遠出はしたつもりはなかったのだが、回転をしくじるほどの距離には出掛けていたらしい。
隣でホワイトボードをじっと見つめるユミに、視線を移す。目が悪いのか、ときおり目を細めながら板書の内容をノートに書き留めていくユミ。さらさら、さらさらさら。華奢な右手は蛍光ペンをとって、なにやら重要そうな単語にラインを引いていく。くるり。蛍光ペンが指の先で回転した。なんときれいな真円だ。私はほとんど目を剥いてその光景に驚いた。
つと持ち上げた彼女の瞳が、そのまま私の心までを射抜いた。
「なに見てるの」
非難というわけではなく、単純な疑問のようにユミは言う。
私は、応える言葉を持ち合わせていないので、ホワイトボードを見るふりで前を向く。
いや、本当は合った。持ち合わせる言葉なら、ちゃんと。
でも言うわけにはいかなかった。それは私のプライドを傷つける。言ったが最後、私は二度とユミに笑顔を向けられない。
代わりといってはなんだが、質問を投げてみた。
「明日、どうする?」
ユミは、いつの間にか持ち替えたピンクの蛍光ペンを空に泳がしながら、きょとんとした。
「明日?」
気は乗らなかったけど、その返事の軽さが何かを刺激して、私にシャープペンを走らせた。ホワイトボードを仮想の敵に想定し、睨みつける。あいまに会話を続けた。
「飲み会。メールきてたでしょ。明日だよ」
「ああ」
そのことか、とうなずいたユミは、んー、としかめっ面をして、ピンクの蛍光ペンをまたくるりと一回転させた。真円だ。やはり私は驚く。
「午後は、まるっとバイト入れてたんだよね」
「ああ、そうなんだ」
「うんー。行きたいんだけど、行けるかどうか」
「そっか」
シャープペンの芯が折れた。私は、かちかちと芯を出す。
「無理しなくていいんじゃない? どうせ、いつものメンツだろうし」
「うん、まあ、そうね、行けたら行くよ」
「うん。分かった。待ってるね」
うそ。待ちなどしない。
また芯が折れる。私は、かちかちと芯を出す。力が入っているからだと、直後にまたぽきりと折ってから気が付いた。でも、なんで? そこは、あまり掘り下げない。
ぐるぐると最低な思いが脳裏を駆け巡り、私は、頭をこのまま机にぶつけたい衝動に駆られた。ごつんと、部屋中がとつぜん静まり返るほどの轟音を立てて、ぶつけたい。真っ赤な血が出ればいいのだ。額を思いきり切って、残念な遺体のようにそのまま眠ってしまいたい。もう、残念な遺体そのものになってしまいたい。
ため息をつくと同時に、また芯が折れた。私はうんざりして、生気ごと取れてしまいそうなため息を吐き出した。
横でユミが微笑んでいた。
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